山林売買で一部の移転登記しか完了していなくても、全部収益になることがある

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山林売買で一部の移転登記しか完了していなくても、全部収益になることがある
 不動産の譲渡をめぐって、その譲渡による収益は一部を引き渡ししたときは、その部分だけ、そ の事業年度の収益に計上すればよいのか。計上する時期によって税金の負担額が変わってきますの で、慎重にその時期を吟味しなければなりません。

 北沢産業株式会社は、資本金三千万円の会社で本社は東京にあり、主として洋服生地の卸販売 を業としています。たまたま、山梨県に山林三万平方メートル(約九千坪)を持っていました。これは先 代の社長が昭和三十年頃に安く手に入れたものだったのですが、宮地不動産という株式会社から、この山林を譲 って欲しいとの申し入れがありました。宅地造成して売る目的です。

 北沢産業のこの山林の決算書に載っている帳簿価額は五千四百万円であり、これを総額二億七 千万円で売って欲しいというのだから、この会社としては大変なもうけが出ることになります。この 不況下において、二億円の利益を生みだすのは容易ではありません。現社長は売る決心をしました。しか し、こわいのは税金です。法人税その他で半分ほど持っていかれるとなると、それは痛いでしょう。

 しかし幸いにして、この山林が先代が買収したとき何人かの持主になっていたので、登記 上では六つにわかれています。しかし、山林としては全体を通じて一区画を構成しています。そこで三分の一ずつ売ることにしたら、もうけが分散されて、法人税なども安くなるだろうと考えたのです。 資本金が一億円以下の会社で一年決算ですと、年七百万円以下の所得金額に対しては、28パー セントの法人税率で、年七百万円を超える部分に対しては40パーセントの法人税率が適用され ます。本業のほうは赤字か、収支とんとんの状態なので、二億円を越す山林の売却による 利益も三年にわければ、低い法人税率が適用される部分の金額が多くなり、総体的には法人税が いくらか安くなると計算したのです。

 そこで、第一の事業年度ではまず約三分の一を売ったことにして、帳簿上の処理をし、第二の 事業年度、第三の事業年度もそういうことにしました。当然、第一の事業年度では売ったことにした 約三分の一の部分しか登記をしませんでした。しかし、売却代金二億七千万円については、全部の山 林を引き渡したときにもらっていました。会計処理上は、次のように処理した。

(借方)現金預金2億7,000万円

(貸方)土地1,800万円、土地譲渡益7,200万円、仮受金1億8,000万円

 こうすると、仮受金相当額に対しては、この事業年度の収益にならないことになり、課税がの ばされることになります。しかし、運悪く税務署に見つかってしまいました。原則として、固定資産の譲渡については、その 引き渡しがあった日の属する事業年度の益金に算入することになっています。北沢産業は残りの約 三分の二については、売買による所有権の移転登記も終わっていない。だから、収益にしなくて もよいはずだと主張したが、現実に全部の引き渡しが終わっているのだから駄目だということに なったのです。突にガンコな税務署のやり方だと怒ったが仕方ありません。