顧客への「お車代」は領収書がなくても認められる

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顧客への「お車代」は領収書がなくても認められる
 税務上の取扱いというものは、いついかなる場合にも四角四面で、少しのゆとりもないものだろ うか。それならそれで、納税者も常に税務署から損金を否認されないように、あらゆる手段を講じ なければならないが、時rと場合によっては納税者の立場を考えてくれることもある。 加納バッグ株式会社は、資本金一千万円の会社である。年に一回、新製品の紹介をかねてあま り大げさではないが、展示会を聞く。これには東京都内はもちろん近県からも、問屋筋や特約店 から百人くらいの人が集まる。毎年この催しは相当営業政策上の効果をあげていた。昨年もこの 展示会を開催し、集まったお客さんに五千円均一の「車代」をのし袋にいれて渡した。五日間で 百十五人のお客さんだったので、五十七万五千円が現金で支出された。

 この費用を会社は展示会費用として、全額を損金に入れて決算をし、確定申告をすませてい た。税務署はこの費用五十七万五千円全額を損金として認めないというのである。そして全額を 否認し、五十七万五千円の所得金額が増加する更正処分をした。その前年度にも同様の支出が四 十万円ばかりあったが、その前の事業年度にも三十万円ばかりあった。ちょうど調査の対象にな った事業年度は、利益も大きく所得金額もたくさん出ていたので、その事業年度だけ否認されて、あとはさわらないことになった。

 税務署の言い分は、この五十七万五千円が支出された「車代」については、その事実を証明す る有力な証拠である領収書もなく、ほかに支出されたことを"証明するものがなにもない。したが って使途が明らかでないから、全額損金算入を否認するというのである。本来なら使途不明のも のであるから、代表者である社長の賞与と認定してもよいのだが、他へ支出されたものであると いう心証だけはあるから、賞与にすることは勘弁しようというのだ。

 おさまらないのは会社である。次から次に来るお客さんにいちいち領収書をもらうこともでき ないし、また、それほど多額な「車代」でもない。こういうことはほかの業界の一つの慣行にも なっているはずだ、このことによって売上げも促進され、利益も出ているじゃないか、そういう ことを扱み取って、損金算入を認めてくれてもいいじゃないかと、もう一度税務署で争ったが、 やはりどうしても駄目だと突っ放された。

 しかし、どうにも納得できないので、国税不服審判所まで持ち込んだ。この手続きを審査請求 という。詳細な審理が行われた結果、この「車代」は得意先を料亭とか温泉に招待することを廃 止して、それらの費用の半額以下を「車代」として消費的支出をしたのだから、交際費だと判定 を下した。しかも、この会社の交際費の限度額以内だから全額を損金として認めるという裁決を したので占める。