裏金の捻出を外注費にすると、外注先からさぐられることがある

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裏金の捻出を外注費にすると、外注先からさぐられることがある
 土木工事や建築工事は、裏金が動くことが多い。かつては税務当局も一種の社会慈だと大目にみ ていたが、最近は厳しく目を光らせて、内容をよく吟味するようになった。当然注目されるのが外 注脱却である。

 そもそも、外注費とか外注工賃といわれるものはなにかというと、製品の製造工程のうちの一 部を他の工場で請け負ってやってもらったり、土木建設などの場合でも、同様に一部の工事を他 に請け負ってやってもらうときに、そのために支払う費用である。大きなビルディングの建設な どの場合には、元請けの会社に何十という外注先の会社がくっついている。もちろん、親企業が 相当の搾取をし、下請けをいじめている例も相当ある。

 千野電設工業株式会社はビルディングの電気系統の工事を専門とする会社で、資本金五千万 円。この業界では、中堅どころの会社である。主な工事は有名な鍋島建設株式会社からもらって いる。ほとんど鍋島建設の専属のようなものであったが、昨今の不況から一社にだけ頼っている のは、危険性があるように思われた。そこで他の一流建設会社へもなんとか食い込もうというの が、会社の政策であった。

 新しい得意先をつかむためには、なんといっても金が必要だった。この金を生みだす方法がな かなか難しかったが、なんといっても一番困るのは帳簿上の処理である。どこの会社の誰にいく ら渡したと記帳できればなんでもない。しかし、そうしておけば、税務署は相手先まで調べる。 こういうときに出る資金は五千円や一万円というはした金ではない。少なくとも十万円とか二十 万円といった額になる。

 千野電設工業の経理部では、幹部だけでいろいろ協議した。その結果、まず小さな工事をいく つか請け負ったことにし、工事代金の収入の五百二十万円をバラバラにして計上し、それを気心 のわかっている津久井電気と戸村電業の二つの会社が請け負ったことにして、その下請け工事代 金を津久井電気には三百八十万円払い、戸村電業には三百四十万円払った。支払った外注費の合 計額は七百二十万円である。工事収入は五百二十万円であるから、全部外注にだしたことにして も二百万円を損したことになる。そういう工事もときにはあるので、税務署はうるさいことはい うまいと予想した。

 津久井電気と戸村電業には、帳簿に記帳させず、領収書と両社あわせて七百二十万円をそっく り返してもらい、千野電設工業は五百二十万円の工事代金だけを入金し、差額の二百万円は裏金 としてプールし、まず、ねらいをつけている山井建設株式会社という大会社の営業担当者への食 い込み工作にかかった。

 ところが津久井電気にミスが出てしまったのである。税務調査で領収書の控えと入金状況を照 合していた調査官が、一二百八十万円の入金がないことを発見し、この妙案もパレてしまったのである。