非常勤役員報酬は取締役会に出席し、常勤役員より低ければ、賞与にならない

昭和の節税対策  > 税務署が目をつけるポイント  > 非常勤役員報酬は取締役会に出席し、常勤役員より低ければ、賞与にならない

非常勤役員報酬は取締役会に出席し、常勤役員より低ければ、賞与にならない
 会社の役員報酬をめぐる問題は、非常勤役員の報酬や使用人兼務役員の賞与をめぐってよくおこ る。常勤している役員の報酬については、よほどのことがないかぎり問題となることがない。同族 会社ではとくにこの非常勤役員の報酬の支給については慎重でなければならない。 税務署が目をつける帳簿や伝票の裏側

 奈良産業株式会社は資本金二千万円の完全な同族会社である。化学実験用品の輸入販売が主な 仕事である。役員の状況と最近の株主総会で決められた取締役および監査役の報酬は次のとおり。

 代表取締役・社長奈良一郎月八十万円
 専務取締役新日良夫月五十万円
 取締役(非常勤)奈良花江月六万円
 監査役(非常勤〉近藤鶴吉月五万円

 専務の新聞は花江の弟にあたり、社長にとっては義弟にあたる。つまり、花江は社長一郎の妻 だ。なお、監査役の近藤は一郎の中学校時代の恩師である。

 ここに掲記した報酬額は月額であるから、年額は十二倍である。花江の場合は年額七十二万円 になる。税務調査の結果、花江に対する役員報酬が問題になった。社長の一郎は、

 株式会社は商法によって成り立っているものであり、その商法の規定にもとeついて決めた取締 役の報酬について云々するのは、税務の会社に対する内政干渉である」

 と主張した。たしかにそのとおりである。しかし、税務署側も負けてはいない。花江は取締役 として会社の事業に従事していないではないか、従事しているならその事績を明らかにせよと迫 った。たしかに常勤取締役として毎日会社に出てきて働いているわけではない。しかし、取締役 にはちがいない。とうとう税務署は取締役である花江に対する賞与だと認定した。役員賞与とな ると損金にならない。年七十二万円に対応して法人税等がかかる。しかし、所得税はすでに徴収 済みだからかからない。

 異議を申し立てても駄目だった。思いあぐねて国税不服審判所に審査の請求をした。審判所は 公平な立場から裁決をする。そして、またいったんふえた税額以上に増やされる心配はない。納 税者である会社側と税務署の主張を十分に聞き、また事実関係も念入りに調べ、ちょっと時聞は かかったが、花江に対する役員報酬はあくまでも役員報酬であって、役員賞与ではないとしたの である。

 その理由とするところは、さすがに視野が広かった。

(一)取締役奈良花江は、この会社の設立に発起人として参画し、かっ、適法に選任された取締役 である。

(ニ)取締役奈良花江は、取締役会が開催される都度それに出席し、会社の経営および取締役会の 決議に参画し、会社のために利益をもたらしている事実が認められる。

(三)取締役奈良花江に対する取締役としての報酬は、商法上適法に議決され株主総会の承認を受 けたものである。しかも、その額は常勤している他の取締役の報酬にくらべてはるかに低い。 というものであった。