会社名義の備品を社長宅で使うと、見つかれば「役員賞与」

昭和の節税対策  > 節税できる費用の範囲  > 会社名義の備品を社長宅で使うと、見つかれば「役員賞与」

会社名義の備品を社長宅で使うと、見つかれば「役員賞与」
 自分のものは自分のもの、会社のものも自分のもの、これが同談会社経営者が知らず知らずのう ちにおかすまちがいである。会社の資金で応接セットや番困骨質を買い、それを会社の業務用に使 わないで、社長が個人で使っていることがよくある。

 矢代商会は書籍の輸入販売を長いこと手がけている株式会社で、ご他分にもれず一00・ハlセ ントの同族会社である。老舗の強味というのか、業績は悪くない。

 現社長矢代敏〈四十八歳)は、無類の骨董好みである。年に何回かはヨーロッパにでかける。も ちろん商用ではあるが、暇があると自分の趣味に合った家具類や骨董などを買ってくる。昨年は 西ドイツ・ボンの街で見つけたといって、本皮張りの豪華な応接セットを買ってきた。購入代金 のほかに、運賃や関税、それに保険料などを含めて、五百万円にもなった。費用は会社に全部払 わせ、自分の住宅に運び込ませてしまった。会社としては、まさか消粍口問費で落とすわけにもい かないから、術品として資産に計上、減側償却もしている。

 ことしは、スイスのルツェルンの裏町を歩いて見つけたといって、古い陶器の人形と、絵を 二、三枚買って来た。人形は、向こうでの値段が日本円で百五十万円もしたというのである。二百年も昔のものだからと聞けば、なるほどとは思うが、素人目にはとてもそんな値打ちはつけら れない。絵のほうはそれほど高いものではなかったが、それでも人形と絵、そのほか運賃一切を 含めて三百二十万円になった。ほんものの骨董品は値上がりするので、減価償却をすることがで きないものである。会社の備品として、資産勘定には計上した。

 応接セットにせよ、骨董品や絵にせよ、社長以外、会社の役員も、誰も社内で見たものはな い。たまたま、社長の自宅に行ったものが、

 「どうだ素晴らしいものだろう。やはりヨーロッパには、まだ、ほんものがある」 と社長に賛同を求められたものはいるが、社員は、これを会社の備品と思って眺めていない。 社長個人の私物としてしか見ていないのである。

 これが、税務上問題になった。会社内に見当たらない高価な応接セットなどをどう扱うかとい うことである。社長は会社の資金で買い、会社の帳簿にも載っているから、それでいいじゃない かという。しかし、所有権はたしかに会社にあるかも知れないが、これを占有使用し支配してい るのは社長個人である。ふつう帳簿上の固定資,産と会社に実在する固定資産との照合をされるこ とはめったにないが、このときはしつこくやられた。

 総額八百二十万円を本来なら全額役員賞与にすべきだが、 徐に返済したらどうかという税務署の裁断だった。