青色申告には専従者給与という大きな経費がある個人で商売をしていると青色申告ができる。青色申告をしていると、親族の卒業専従者に適正な 給与を払うことができ、それが必要経費になる。払ったことにしていて、実際には払っていないこ とがよくある。
小元源治(五十八歳〉は、東京・月島でささやかな雑穀商を経営している。月商五百万円。戦後 すぐに始めたにしては、あまり発展性がない。そのくせ、大変なケチで、税金を納めない工夫ば かりしている。たまたま車内色申告の時期に息子が高校を卒業し、近所の工場のアルバイトをしな がら、私大の夜間部に通いだした。どうやら一人前になりかかっているので、自分の店で働いて いることにして、毎月十万円の専従者給与を払っていることにした。そうすると賞与も合わせ て、一年で約百五十万円の必要経費が増え、自分の所得税をほとんど払わなくてすむと計算した のである。そしてたまには二、三万円の小遣いをやり、大部分は自分のポケットに入れてしまっ ていたのである。
もちろん、こういうことは、青色申告の専従者給与としては認められない。息子がほんとうに 働いている工場から提出された源泉徴収票と、源治の店で働いていることになっている源泉徴収 票の二枚が、税務署に集まった。税務署も馬鹿ではない。どっちがほんとうに働いているところ なのかが調べられ、源治のウソがパレて、相当の所得税を追徴され、青色申告も取り消された。 税金をケチるのもほどほどにしなければならない。
愛国勝雄(五十三歳)は魚屋をやっている。魚屋というのは、割合に利益率がよい。ここでも息子 が夜間の大学に入ったので、昼間は店の手伝いをさせることにした。魚屋は仕入れが勝負、勝雄 がほとんど一人で朝早く魚河岸へ買い出しに行く、たまには息子も一緒に行くが、それはまれであ る。青色申告の専従者給与として、月十万円を払い、その他に年間三十万円の賞与を払うことに した。労力もいくらか助かると同時に、必要経費がそれだけ増えたので、所得税も安くなった。
勝維の場合は、息子にちゃんと働いてもらっているから、税務上ではなんの問題もない。とこ ろが、生まれつきケチな根性は直し難いもので、給料を満足に息子に渡さないのである。大学の 入学金は父親の責任で出してやったが、あとは自分でまかなえといって、毎月せいぜい五万円を 専従者給与のうちから渡すだけで、あとは自分のポケットにいれて、知らぬ顔の半兵衛をきめ込 んだ。もし、息子が事実を知って税務署に泣き込めば、やはり同じことだ。
会社ならこういう点をはっきりさせるが、個人商店ではよくあることだ。親にしてみれば、家 で食わせてやっているんだからという考えがあるのかもしれない。しかし、まず給料を渡して食 費分だけ、本人からとるようにすればこういう問題はおきない。