社長宅のお手伝いさんは秘書としては認められにくい

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社長宅のお手伝いさんは秘書としては認められにくい
 総理大臣をはじめ各省の大臣には、秘書官なるお手伝いさんがいるが、これは官制上定められた 職務に従事する国家公務員だから、その給与等についてはなんの問題にもならない。ところが、会 社の社長宅のお手伝いさんを秘書として給料を会社が払うと問題になる。

 株式会社木下商会の社長木下栄介(凶十八惑は、独力で会社を築きあげた文字どおりワンマン 社長である。もちろん同族会社である。彼はお手伝いさんを二人雇っている。この二人は木下商 会の事務員兼秘書ということになっていて、給料と賞与は全額会社に負担させている。

 経理の責任者がことあるたびに、

 「社長。こういうことは、会社にとってもよくないことですよ。社長の報酬を少し上げて、個人 の費用は個人で払うようにされたらいかがですか」 としつつこく社長にさとすが、聞き入れられず、社長は、「俺の会社だ。俺の自由にさせてく れ…」の一点張りである。

 募集の新聞広告も、会社の名前でやっているので、身分保障はもちろんのこと、社会保険も会 社のにいれて、かたちとしては事務員扱いをしていたのである。何年かたって、ある年の源泉徴収所得税の監査のとき、とうとうこのからくりがわかってしま った。源泉所得税を調べにきた税務署員は、女子事務員の給与台帳や源泉徴収簿の台帳上の人数 と、社内にいる人数とをちらつとくらべて、どうも机の数と比較しても足りないことに気がつい た。こういうときの税務署員の鼻は妙にきくものである。

 「このほかに、社長室に女性の秘書でもいらっしゃるのですか」

 と聞かれた経理の責任者は、思わず顔色が変わった。どんな税務署員でも、その瞬間は見逃さ ない。その上、二人だけが給料や賞与が他にくらべて低い。追及され、とうとう経理の責任者は ほんとうのことをいってしまった。この場はそれでおさまった。やがて、三ヵ月ぐらいしてから 法人税の実地調査があった。そのときはすでに源泉徴収所得の担当部門から連絡が入っていた。

 「社長さん。この工藤みささんと古村良子さんは、お宅のお手伝いさんなんでしょう…」
 「とんでもない。会社の事務員として働いていますよ」
 「それじゃ、ちょっとここに呼んでもらいましょうか。どうも歳の割に給料も少ないし、おかし いですよ」

 社長は三食の食事代などを差し引いた残りしか、給料として出していなかったのである。結局 は自宅専用のお手伝いさんだと判断されてしまった。もちろん、三年前までさかのぼって、お手 伝いさんの給料全額が、社長に対する役員賞与となり、法人税と所得税の追徴を受けた。