役員の遺族への弔慰金は支払う側は損金、もらう側は無税ル葬式に際しての税務上の問題は多い。まっ先に考えなければならないのは、相続税の問題であ る。死亡による退職金が、所得税法上の退職所得になるかならないかも問題である。ここでとりあ げる「弔慰金」も問題になる。
霧田太郎(七十二歳)は、扶桑商会社長として三十五年勤めた。繊維業界では小さいが名の知れ た問屋である。半年ばかり病気で寝込んでいたが、ついに死亡した。会社として社葬にはしない ことにした。遺族が静かに送って欲しいと申し出たからである。緊急に取締役会が聞かれ、退職 金についてはいずれ株主総会で決めることにして、とりあえず弔慰金として三百万円を遺族に贈 ることを決議し、専務ともう一人の取締役が亡き社長宅を訪ね、霊前に供えた。
会社側、遺族ともこの弔慰金三百万円が税務上どういう取扱いを受けるかが疑問として残った。 経理課長以下税務に強い連中も初めてぶつかった問題なので、約一週間調べた。下手に税務署や 国税局に聞いて、ヤブヘピになっても困るという配慮から、一二人の経理課の社員が、法人税法と 関係通達、所得税法と関係通達を手分けして調べたが、これに該当するような明確な限定はない。
ようやく所得税基本通達のなかに、葬祭料、香典または災害等の見舞金で、その金額が受贈者
(もらう人〉の社会的地位、贈与口聞との関係等に照らし社会通念上相当と認められるものについて は課税しないという項目が見つかったが、額については具体的ではない。若い社員が丹念に相続 税法と相続税基本通達まで、手をのばして調べていった。そして、やっと明確な取扱いの通達が 見つかったのである。
被相続人(この場合は亡くなった霧回社長〉の死亡により、相続人その他のものが受ける弔慰金、 輪代、葬祭料等については、次の金額以下である場合には、課税されないというのである。
(一)被相続人の死亡が業務上の死亡であるときは、その雇一用主等から受ける弔慰金等のうち、 その被相続人の死亡時における普通給与の三年分。
(ニ)被相続人の死亡が業務上の死亡でないときは、普通給与の半年分。
霧田社長の死亡時における役員報酬は月七十五万円だった。病気で亡くなったのであるから、 業務上の死亡ではない。したがって、半年分の四百五十万円までは、会社が弔慰金として支給し ても、それをもらった遺族である相続人は、それについて相続税がかからないことはもちろんの こと、所得税もかからないことがはっきりしたわけである。
これがもし業務上の事故等で死亡したのであれば、三年分すなわち二千七百万円までは、まっ たく税金はかからないのである。
では支給する会社側はどうだろう。退職金とは別枠で立派に損金になるのである。