マル優扱いの架空名義預金はなぜバレにくいか少額預金等の利子所得の非課税制度は、元本三百万円までの預金等の利子に課税しないという制度ですが、これは個人個人、一人一人についてです。そのため、二人なら六百万円、五人なら千五百 万円ということになります。ここに抜け穴があるのです。
銀行などの窓口で新たに預金をし、非課税貯蓄の申告マル優をするときには、銀行側は口座が増 えればそれだけ商売繁盛ということになるので、だいたいはうるさいことを言いません。
村野修(五十三歳〉は、自分の名前では少額預金等の非課税限度一杯の預金をしています。しかし、 限度を超えている部分については、堂野末士口という名で別の銀行に少額預金等の非課税限度一杯 の預金をしていました。銀行ものんきなもので、住民票を持ってこいとか、印鑑証明書を持ってこいだとかうるさいことを言いませんでした。しかし、この銀行でも限度を超えたため、彼はまた別名でマル優の預金をしました。こうしてとうとう五つの銀行に合計千五百万円の預金をしたのです。したがって、すべて利子については非課税の取扱いになっているわけです。
村野修本人としては、一年間にいくら税金を納めなくてすむかというと、全部定期預金で、年利率五・五パーセントとすれば、次のような計算になります。
(一)合法的に利子に対して所得税がかからない分(村野修本人名義〉
300万円×5.5%=16万5000円 16万5000円×20%=3万3000円(免税額)
(ニ)非合法に利子に対して所得税がかからない分(堂野末吉等架空名義四ロ分)
(300万円×4)×5.5%=66万円 66万円×20%=13万2000円(非合法に免れた税額)
これが五年、十年と長期にわたって架空名義分がわからなかったとすると、 百三十二万円の所得税を免れたことになります。
ところが、実際にはこれがなかなかバレないのです。税務署に非課税貯蓄の申告書が銀行などから集まってくるのですが、膨大な枚数なので、一人一人の名寄せをやってチェックするだけの人的余裕がないのです。これを完全にやろうとすれば、いまの税務署職員を三倍ぐらいの十五、六万人にしなければできないだろうと言われています。
しかし、何分の一か、あるいは何十分の一かを年に一回ぐらい無作為に抜き取って照合検査を やることがある。そういうときに運悪く架空名義がバレてしまう。このときには非課税限度額を 超えている預金額については、利子についてのマル優扱いはもちろん駄目になる。