役員が夏、冬のボーナスをもらうにはやり方がある役員に対する賞与は、全額が損金にならない。したがって、一般的な経費としてボーナスの時期 に賞与をだしても、それは損金にならないわけだ。といって、従業員がボーナスをもらうのに役員 がもらえないというのも不合理だ。そこで…
宇藤建設株式会社では、代表取締役宇藤律平(七十五歳)のほかに取締役が五人、監査役が一人 いる。株式の大部分は宇藤一族の所有である。宇藤以外の役員は、少数の株式しか持っていない から、決算期になっても、もらう配当金が少ない。一方で字藤一族は配当金を楽しみにしてい る。利益が出て、配当にたくさんまわすと、役員賞与にまわす処分額は当然少なくなる。本来な ら役員賞与は、利益処分で出すべきなのに、それがなかなかできないのである。
いろいろ考えた末、いっそのこと毎月の役員報酬のうちから、そのうちのいくらかを別に貯め ておき、それを六月と十二月のボーナス時期に会社から払いだす方法はどうだろうかということ になった。役員とはいえ、もとをただせば、宇藤社長以外は全部一履一われ役員である。だから、ボ ねた lナスの時期になり、従業員がボーナスをもらっているのをみると、なんとなく妬ましい気にな るのである。経理部長がこの方法を説明すると、それじゃ毎月の手取り額が少なくなるから困る
という意見が多かった。
そこで、経理部長は宇藤社長をときふせ、次の定時株主総会で役員報酬の額を増やして、さき の方法をとることにした。たとえば、江津専務取締役の場合、取締役報酬が月七十万円である。 これを月十二万円ふやして八十二万円とし、毎月十万円は会社が預かっておくのである。する と、年に百二十万円になる。このうち五十万円を六月に支払い、十二月に七十万円を支払うこと にした。江津専務の場合、各月の支給額が大きくなったので、所得税が増え、手取り金額は逆に 減った。だが、これはあきらめてもらった。しかし、こういうやり方は違法じゃないかと、総務 経理を総括する尾花常務取締役から質疑がだされた。
しかし、大丈夫だろうという結論になった。なぜかというと、毎月の報酬の手取り分のうちか ら、その一部を会社へ預けることは役員の自由意志によるものであるというのが基本的な考えで あった。もし、その預けた金額について、相当多額の利息を会社からもらうようなことでもすれ ば、役員個人に所得税の問題がおきるかも知れないが、この場合はなんの問題も起きない。
会社が会社の正規の会計をとおして預からず、まったく別途に預金通帳をつくって預かったら どうだろうという意見もあったが、それをやってもし税務署にあらぬ疑いをかけられると、かえ ってうるさいことになるので、その意見は否決された。
税務調査があったが、「やってますな」のひとことですんでしまった。