ローンのマンションを自分の会社に貸して家賃をとっても、銀行利息は経費になる不動産をめぐる税金対策には、それを賃貸ししたときの収入と、それに対応する経費、あるいは ローンのような借入金の返済や利息の支払いなどがからみ合う場合が多い。そういうときは、筋道 を立てて整理しておいたほうがよい。
吹上産業株式会社では、社長の木下隆二(五十九歳)の個人資産が多いことが、業界や金融関係 の信用を得るもとになっていた。その資産の多くは不動産と株式に投資されていた。
あるとき都心へ地下鉄で三十分ぐらいのところに、新しくグリーン・マンションというちょっ とかっこのよいマンションが売りに出された。木下は例によって、一区画二千三百万円と、二千 五百万円との二区画を買った。不動産会社が推奨するとおり、使いよさそうだし、一流の建築会 社が建築を請け負っただけに、造りもしっかりしていた。買って持っていても、三年もすればい くらかもうけて売ることもできるが、自分の会社の課長級の中堅社員のなかに、住宅に不自由し ているのがいるので、いろいろ考えた結果、一括して会社に貸し、会社が営業第二課長と経理課 長の二人に、社宅として使わせることにした。会社はこの二人からは税務上も相当と認められる 家賃をとることにした。
社長は、木下個人として会社から十八万円の家賃をもらうことにした。というのは、四千八百 万円のマンションの買取り代金のうち、二千万円は即金で払ったが、残りの二千八百万円につい ては十五年の銀行ロlンにしたので、これの元金返済と利息の支払いにあてたいと思ったからで ある。十八万円という相場は、自分の会社だからということもあり、それにもし売ってもうけた いとき、自分の会社の社員が住んでいるのなら、比較的楽に空家にできると考えたからである。
ここで問題は、毎月十八万円はいる家賃は自分のなにの所得になるかということと、銀行に毎 月十六万円の元金返済と年九パーセントの割合による利息の返済が全部経費になるのかならない のかということである。こういうことについて木下は意外に無知だった。
まず、問題になるのは、家賃の額が税務上も妥当かどうかということだが、時価にくらべてあ まりにも安すぎるときは問題だが、この程度では問題にならない。月十八万円、年にして二百十 六万円は、不動産所得の基になる収入である。これから諸経費を差し引いた残額が不動産所得の 金額になる。諸経費のうちはっきりしているのは減価償却費である。管理費などは会社に負担さ せることにしたので、経費に入らない。損害保険料は経費になる。銀行への支払い利息だが、こ れは経費にしてもよいし、しないで取得価額にいれてもよい。経費にすれば、その年分の不動産 所得の金額が少なくなり、もし、経費にしないでおくとこのマンションを売るときの取得価額が 高くなる。したがって、算出される譲渡益が少なくなり、譲渡所得が少なくなるのである。