返す必要のない敷金は、貸室という事実が発生した時点で収益となる

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返す必要のない敷金は、貸室という事実が発生した時点で収益となる
 貸室、貸事務所などには家賃収入や礼金といったように、明らかに収益となるものがあります。また、 預かり保証金や敷金といったように賃貸人にとって、負債となるものがあり、税務上も問題が多 いです。敷金として預かったもののうち、返さなくてもよい敷金は、いつの時点で収益とすべきなのでしょうか。

 狭間勇二さん(五十一歳)はたまたま東京都内の目抜きの場所に500平方メートル(約151坪〉の 土地を持っていたので、十年前に個人で銀行から借入れをしてビルディングを建てました。ワンフロア の貸付け面積は約420平方メートル(約127坪)で七階建てです。エレベーター・ホール や便所といった共用部分を差し引くと、このくらいの面積しか貸し付けられません。場所がいいせ いもあって、小さな会社にフロア単位で貸し付けています。二年に一度ぐらいの割合で、立ち退く 会社がある程度で、どちらかというと、安定した経営です。貸事務所ピルの経営というのは、 大した経費がかかりませんので、毎年相当大きな不動産所得の金額を申告しなければなりません。い まになって思うと、初めから会社組織にすればよかったと思うのですが、いまさら手遅れだったのです。

 二つのフロアを使っていた会社が、不況のあおりを受けて倒産し、そのあとが空いてしまいました。

 新しい借り手はすぐ見つかりました。上場会社の分室として扱うので、資金は十分にあるといいます。

 ワンフロアの貸室料を月九十五万円とし、敷金として月額の貸室料の六ヵ月分を預かるのですが、そのう ちの一ヵ月分については明け渡し後の補修費に充当するということで、返済しないという契約で した。二フロアで敷金1140万円を預かりましたが、そのうち190万円は返さなくてもよい敷金 なのです。これは友人が知恵をつけてくれたことでした。要はこの預かった敷金をうまく活用す ると、これがまた年聞にいくらかの利を生むのです。また、狭間さんは一ヵ月分を返済しなくても よいとなると、明け渡しがあったときの補修費も助かると考えていたのです。

 狭間さんは青色申告をしているので、ちゃんと帳簿をつけています。帳簿には敷金勘定に敷金の金額1140万円を計上しました。敷金はいずれ返すものですから全一績を負債の勘定にしていたのです。

 しかし、実際はうまくいきませんでした。税務署の調査で、返さなくてもよい部分の敷金は賃貸借 契約をし、貸室という事実が発生した時点において、収益として計上すべきだと指摘されたので す。そうするとその年の所得の金額が190万円だけ多くなるのですが、もともとベースになる所得 の金額が多いので、適用される税率も高くなります。狭間さんにとってこれ以上税金がふえては困ります。

 狭間さんは、「返さなくてもよい敷金というのは、明け渡しがあったとき敷金を返すことが前提であ る。そして、そのうちそのときに一ヵ月だけ返さなくてよいのだから、そのときに収益に計上す ればよいのじゃないか」と抗弁しました。しかし、契約書で初めから返さなくてもよいことがわかって いる事実があるので、結局は駄目だったのです。